11月の初め、エクアドルのパン屋の棚には、おくるみに包まれた赤ちゃんがずらりと並びます。ピンクや水色のアイシングで描いた顔と縞の服。隣には、湯気を立てる深い紫色の飲みもの。グアグア・デ・パンは、11月2日「死者の日(Día de los Difuntos)」に家族で焼いて分け合う、赤ちゃんの形の甘いパンです。相棒は紫トウモロコシと果物を煮た温かい飲みもの「コラダ・モラダ」。この記事では、名前と由来、相棒の飲みもののこと、日本の台所での作り方と成形のコツ、つまずきやすい点までを紹介します。
「グアグア」は、ケチュア語で赤ちゃん
グアグア(guagua、綴りによっては wawa)は、アンデスの先住民の言葉ケチュア語で「赤ちゃん・子ども」。つまり名前はそのまま「赤ちゃんのパン」です。パン生地を細長い楕円にして、上に小さな丸い頭をのせ、腕も足もつけない。おくるみに包まれた赤ん坊の姿を写しています。
同じ発想のパンはアンデス一帯にあります(ペルーの祭礼パンはクスコのパン・チュータで紹介しました)。ペルー南部やボリビアでは「タンタ・ワワ(t’anta wawa)」と呼ばれ、石膏の仮面をつけたものや、梯子、馬やリャマの形まであるそうです。エクアドルのものはもっと素朴で、家庭で焼いて家族や隣人と贈り合うのが基本。南部ロハの町では「プエルキータス(子豚ちゃん)」と呼んで動物の形にし、名づけ親が名づけ子にひとつ買ってあげる習わしもあると、エクアドル出身の料理ブロガーが書いています。
煤で顔を描いた、砂糖なしの小さなパン(由来)
昔のグアグア・デ・パンは別の名前で呼ばれていました。「パン・デ・ムエルト」「パン・デ・フィナードス」、どちらも「死者のパン」という意味です。エル・コメルシオ紙によれば、初期のものは長さ10cmほどで砂糖を入れず、豚の脂とバターと卵をたっぷり使い、顔は薪窯の煤で描いた。甘いコラダ・モラダに添えるパンだから、パン自体は甘くなくてよかったのです。砂糖と色がついて華やかになったのは1980年代、店で売られるようになってからといいます。
起源については、はっきり二つの説が並びます。歴史家フリオ・パソスは、小麦粉を持っていたのはスペイン人の地主だったことから、19世紀半ばに白人・メスティーソの文化として生まれ、山岳地帯とコロンビア南部に広がったと考えます。一方、人類学者エンリケ・タシグアーノは先住民の側に立ち、スペイン当局がミイラを囲む先祖供養の儀式を禁じたとき、人々は亡き人の体をパンの人形に置き換えて弔いを続けた、だからグアグアには腕も足もないのだ、と説明します。「5,000年前から」と書く記事もありますが、文字の記録は16世紀以降で、年代は言い伝えの域です。どちらの説でも、パンが「体」を表すことは変わりません。

相棒は「コラダ・モラダ」— 紫トウモロコシの温かい飲みもの
グアグア・デ・パンは単独では語れません。必ず添えられるのがコラダ・モラダ。紫トウモロコシの粉を、モラ(アンデスのブラックベリー)、モルティーニョ(野生のブルーベリー)、ナランヒージャ、パイナップル、ババコ、いちごといった果物と、シナモン、クローブ、イシュピンゴ(アンデスのシナモンに似た香辛料)、レモングラスで煮た、とろりと濃い紫の飲みものです。
先住民は葬送の儀式で、黒トウモロコシとモラとナランヒージャの発酵飲料を作り、亡き人の魂が旅路を迷わないようにと供えたと、エクアドル・カトリック大学の教員ルベン・ポソが語っています。紫の飲みものが「血」、パンの人形が「体」。だから二つは一対なのです。いまも11月2日には、家族が墓地にこの二つを持って集まり、故人と一緒に食べる。悲しみというより、年に一度の家族の集まりの温度です。

作り方(日本の台所で)
バターと卵たっぷりのリッチな生地で、ブリオッシュと菓子パンの中間。エクアドルの家庭レシピを日本の材料に置き換えました。
- 粉:強力粉300g+薄力粉200g(中力粉500gでも可)
- 砂糖:100g/塩:小さじ2/シナモンパウダー:小さじ1
- ドライイースト:7g(1袋)/牛乳:120mlを人肌に温めて
- 無塩バター:110g(室温)/卵:4個/バニラ:小さじ1
- 好みで:オレンジの皮、アニス少々
- 中身(好みで):板チョコ、グアバペースト、ブラックベリージャム、ドゥルセ・デ・レチェ
- 仕上げ:卵黄2個分(つや出し)、粉糖200g+卵白+食用色素(アイシング)
手順はこうです。
- 前種を作る:温めた牛乳にイーストをふり入れて溶かし、粉を大さじ4ほど混ぜてとろりとさせ、1時間ほど置く。ふくらんで、一度沈むくらいまで。
- こねる:残りの粉、砂糖、塩、シナモン、卵、バニラを前種に合わせ、ひとまとまりになったらバターを加えてなめらかで弾むまでこねる。かたければ牛乳を、ゆるければ粉を大さじずつ。
- 一次発酵:油を薄く塗ったボウルで、2倍になるまで約2時間(暖かい場所で)。
- 分割:ガスを抜いて、ひとつ85〜110gに分ける。10〜15体分。
- 成形:次の章で。
- 最終発酵:天板に並べ、ひとまわり大きくなるまで15〜20分。
- 焼く:卵黄を塗り、175℃で15〜20分。上がきつね色になったら出す。
- 飾る:完全に冷ましてからアイシングで顔と服を描く。
発酵の見極めに迷ったら、季節ごとの温度の目安は発酵温度ガイドが役に立ちます。

赤ちゃんの形にする(成形)
いちばん楽しい工程です。やり方は三つ。
- 型抜き:生地を2.5cmほどの厚さにのばし、厚紙で作った人形の型紙に沿って切る。大きさがそろうので、初めてならこれ。
- 手で包む:生地玉を細長い楕円にして、上の方をくびれさせて頭を作る。小さくちぎった生地で目や腕をつける。素朴で、いちばん「らしい」顔になります。
- 中身を包む:生地玉を楕円にのばし、上寄りに中身をのせて餃子のように折りたたみ、残りを巻きながら両端をキャンディーの包み紙のようにねじる。両端が頭とおくるみの裾になります。
焼くと生地はぐっとふくらみます。頭は思ったより小さめに、胴は細めに作るのがコツ。アイシングは冷めてから。熱いうちに塗ると溶けて流れます。
よくある失敗と、その直し方
- 顔のパーツが焼いたらどこかへ行った → 生地でつけた目や腕は、発酵でずれます。目鼻はアイシングで後から描く方が確実。レーズンは焼くと飛び出し、チョコの粒は溶けて焦げます。
- 中身が漏れて天板で焦げた → ジャムやドゥルセ・デ・レチェなど、とろりとした中身は漏れやすい。手で包むなら板チョコやグアバペーストのような固形を。
- ふくらみすぎて、赤ちゃんが相撲取りに → 分割の重さがばらばらか、最終発酵が長すぎ。型紙で大きさをそろえ、ひとまわり大きくなった時点で焼く。
- 生地がべたついてこねられない → 卵4個のリッチ生地なので最初はべたつくのが普通。こね続けるとつながります。どうしても手に負えなければ粉を大さじ1ずつ。
日本の家庭でも作れる!— 嬉兆からの提案
材料はどれも日本のスーパーでそろいます。中身は、あんこ、さつまいも餡、マロンペースト、板チョコが相性抜群。グアバペーストの代わりなら、固めのいちごジャムか、ようかんを角切りにするのが漏れにくくておすすめです。
コラダ・モラダも「それらしい一杯」は作れます。ぶどうジュースにブルーベリー、刻んだパイナップル、いちごを入れ、シナモンスティックとクローブを落として煮て、紫いもパウダーか片栗粉少々でとろみをつける。レモングラスがあればひと枝。紫のとろりとした温かい一杯に、赤ちゃんのパンを浸して食べると、10月の終わりの夜がぐっと優しくなります。
ちなみにエクアドルの首都キトでは、今年も10月17日に観光局と大学の主催で「死者のパンとコラダ・モラダ」の品評会が開かれ、23の店が味・香り・形・地元の材料を競いました。子どもに生地を渡して好きな顔を作らせる、というのがエクアドルの家庭の11月。日本でも、故人の好物を中身にして、家族で顔を描く夜があっていい。
参考にした情報源
- Las primeras guaguas de pan tenían otro nombre | El Comercio
- Origen de la colada morada y la guagua de pan | Teleamazonas
- Guaguas de pan recipe | Laylita’s Recipes
- Guaguas de pan: historia y lugares para comprarlas | Expreso
- Quito escoge el mejor pan por el Día de los Difuntos | El Comercio
- Guagua de pan | Wikipedia(スペイン語版)
