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エクアドルのグアグア・デ・パン(Guaguas de pan)— 11月2日、赤ちゃんの形の甘いパンと紫の飲みもので故人を迎える

2026年10月18日 読了時間 約10分
エクアドルのグアグア・デ・パン。色つきのアイシングで顔と縞の服を描いた赤ちゃんの形の甘いパン3つと、果物の浮いた紫色のコラダ・モラダ

11月の初め、エクアドルのパン屋の棚には、おくるみに包まれた赤ちゃんがずらりと並びます。ピンクや水色のアイシングで描いた顔と縞の服。隣には、湯気を立てる深い紫色の飲みもの。グアグア・デ・パンは、11月2日「死者の日(Día de los Difuntos)」に家族で焼いて分け合う、赤ちゃんの形の甘いパンです。相棒は紫トウモロコシと果物を煮た温かい飲みもの「コラダ・モラダ」。この記事では、名前と由来、相棒の飲みもののこと、日本の台所での作り方と成形のコツ、つまずきやすい点までを紹介します。

「グアグア」は、ケチュア語で赤ちゃん

グアグア(guagua、綴りによっては wawa)は、アンデスの先住民の言葉ケチュア語で「赤ちゃん・子ども」。つまり名前はそのまま「赤ちゃんのパン」です。パン生地を細長い楕円にして、上に小さな丸い頭をのせ、腕も足もつけない。おくるみに包まれた赤ん坊の姿を写しています。

同じ発想のパンはアンデス一帯にあります(ペルーの祭礼パンはクスコのパン・チュータで紹介しました)。ペルー南部やボリビアでは「タンタ・ワワ(t’anta wawa)」と呼ばれ、石膏の仮面をつけたものや、梯子、馬やリャマの形まであるそうです。エクアドルのものはもっと素朴で、家庭で焼いて家族や隣人と贈り合うのが基本。南部ロハの町では「プエルキータス(子豚ちゃん)」と呼んで動物の形にし、名づけ親が名づけ子にひとつ買ってあげる習わしもあると、エクアドル出身の料理ブロガーが書いています。

煤で顔を描いた、砂糖なしの小さなパン(由来)

昔のグアグア・デ・パンは別の名前で呼ばれていました。「パン・デ・ムエルト」「パン・デ・フィナードス」、どちらも「死者のパン」という意味です。エル・コメルシオ紙によれば、初期のものは長さ10cmほどで砂糖を入れず、豚の脂とバターと卵をたっぷり使い、顔は薪窯の煤で描いた。甘いコラダ・モラダに添えるパンだから、パン自体は甘くなくてよかったのです。砂糖と色がついて華やかになったのは1980年代、店で売られるようになってからといいます。

起源については、はっきり二つの説が並びます。歴史家フリオ・パソスは、小麦粉を持っていたのはスペイン人の地主だったことから、19世紀半ばに白人・メスティーソの文化として生まれ、山岳地帯とコロンビア南部に広がったと考えます。一方、人類学者エンリケ・タシグアーノは先住民の側に立ち、スペイン当局がミイラを囲む先祖供養の儀式を禁じたとき、人々は亡き人の体をパンの人形に置き換えて弔いを続けた、だからグアグアには腕も足もないのだ、と説明します。「5,000年前から」と書く記事もありますが、文字の記録は16世紀以降で、年代は言い伝えの域です。どちらの説でも、パンが「体」を表すことは変わりません。

色つきのアイシングで顔と縞の服を描いたグアグア・デ・パン3つと、果物の浮いた紫色のコラダ・モラダの土器のカップ
写真はイメージです(嬉兆制作)

相棒は「コラダ・モラダ」— 紫トウモロコシの温かい飲みもの

グアグア・デ・パンは単独では語れません。必ず添えられるのがコラダ・モラダ。紫トウモロコシの粉を、モラ(アンデスのブラックベリー)、モルティーニョ(野生のブルーベリー)、ナランヒージャ、パイナップル、ババコ、いちごといった果物と、シナモン、クローブ、イシュピンゴ(アンデスのシナモンに似た香辛料)、レモングラスで煮た、とろりと濃い紫の飲みものです。

先住民は葬送の儀式で、黒トウモロコシとモラとナランヒージャの発酵飲料を作り、亡き人の魂が旅路を迷わないようにと供えたと、エクアドル・カトリック大学の教員ルベン・ポソが語っています。紫の飲みものが「血」、パンの人形が「体」。だから二つは一対なのです。いまも11月2日には、家族が墓地にこの二つを持って集まり、故人と一緒に食べる。悲しみというより、年に一度の家族の集まりの温度です。

打ち粉をした木の板の上で、おくるみに包まれた赤ちゃんの形に成形した焼く前のグアグア・デ・パンの生地4つ。横に角切りのグアバペースト
写真はイメージです(嬉兆制作)

作り方(日本の台所で)

バターと卵たっぷりのリッチな生地で、ブリオッシュと菓子パンの中間。エクアドルの家庭レシピを日本の材料に置き換えました。

  • 粉:強力粉300g+薄力粉200g(中力粉500gでも可)
  • 砂糖:100g/塩:小さじ2/シナモンパウダー:小さじ1
  • ドライイースト:7g(1袋)/牛乳:120mlを人肌に温めて
  • 無塩バター:110g(室温)/卵:4個/バニラ:小さじ1
  • 好みで:オレンジの皮、アニス少々
  • 中身(好みで):板チョコ、グアバペースト、ブラックベリージャム、ドゥルセ・デ・レチェ
  • 仕上げ:卵黄2個分(つや出し)、粉糖200g+卵白+食用色素(アイシング)

手順はこうです。

  • 前種を作る:温めた牛乳にイーストをふり入れて溶かし、粉を大さじ4ほど混ぜてとろりとさせ、1時間ほど置く。ふくらんで、一度沈むくらいまで。
  • こねる:残りの粉、砂糖、塩、シナモン、卵、バニラを前種に合わせ、ひとまとまりになったらバターを加えてなめらかで弾むまでこねる。かたければ牛乳を、ゆるければ粉を大さじずつ。
  • 一次発酵:油を薄く塗ったボウルで、2倍になるまで約2時間(暖かい場所で)。
  • 分割:ガスを抜いて、ひとつ85〜110gに分ける。10〜15体分。
  • 成形:次の章で。
  • 最終発酵:天板に並べ、ひとまわり大きくなるまで15〜20分。
  • 焼く:卵黄を塗り、175℃で15〜20分。上がきつね色になったら出す。
  • 飾る:完全に冷ましてからアイシングで顔と服を描く。

発酵の見極めに迷ったら、季節ごとの温度の目安は発酵温度ガイドが役に立ちます。

天板に並んだ焼きたてのグアグア・デ・パン6つ。丸い頭と楕円の胴の人形の形で、卵黄を塗った表面がつやつやと光り、まだ飾りをつけていない
写真はイメージです(嬉兆制作)

赤ちゃんの形にする(成形)

いちばん楽しい工程です。やり方は三つ。

  • 型抜き:生地を2.5cmほどの厚さにのばし、厚紙で作った人形の型紙に沿って切る。大きさがそろうので、初めてならこれ。
  • 手で包む:生地玉を細長い楕円にして、上の方をくびれさせて頭を作る。小さくちぎった生地で目や腕をつける。素朴で、いちばん「らしい」顔になります。
  • 中身を包む:生地玉を楕円にのばし、上寄りに中身をのせて餃子のように折りたたみ、残りを巻きながら両端をキャンディーの包み紙のようにねじる。両端が頭とおくるみの裾になります。

焼くと生地はぐっとふくらみます。頭は思ったより小さめに、胴は細めに作るのがコツ。アイシングは冷めてから。熱いうちに塗ると溶けて流れます。

よくある失敗と、その直し方

  • 顔のパーツが焼いたらどこかへ行った → 生地でつけた目や腕は、発酵でずれます。目鼻はアイシングで後から描く方が確実。レーズンは焼くと飛び出し、チョコの粒は溶けて焦げます。
  • 中身が漏れて天板で焦げた → ジャムやドゥルセ・デ・レチェなど、とろりとした中身は漏れやすい。手で包むなら板チョコやグアバペーストのような固形を。
  • ふくらみすぎて、赤ちゃんが相撲取りに → 分割の重さがばらばらか、最終発酵が長すぎ。型紙で大きさをそろえ、ひとまわり大きくなった時点で焼く。
  • 生地がべたついてこねられない → 卵4個のリッチ生地なので最初はべたつくのが普通。こね続けるとつながります。どうしても手に負えなければ粉を大さじ1ずつ。

日本の家庭でも作れる!— 嬉兆からの提案

材料はどれも日本のスーパーでそろいます。中身は、あんこ、さつまいも餡、マロンペースト、板チョコが相性抜群。グアバペーストの代わりなら、固めのいちごジャムか、ようかんを角切りにするのが漏れにくくておすすめです。

コラダ・モラダも「それらしい一杯」は作れます。ぶどうジュースにブルーベリー、刻んだパイナップル、いちごを入れ、シナモンスティックとクローブを落として煮て、紫いもパウダーか片栗粉少々でとろみをつける。レモングラスがあればひと枝。紫のとろりとした温かい一杯に、赤ちゃんのパンを浸して食べると、10月の終わりの夜がぐっと優しくなります。

ちなみにエクアドルの首都キトでは、今年も10月17日に観光局と大学の主催で「死者のパンとコラダ・モラダ」の品評会が開かれ、23の店が味・香り・形・地元の材料を競いました。子どもに生地を渡して好きな顔を作らせる、というのがエクアドルの家庭の11月。日本でも、故人の好物を中身にして、家族で顔を描く夜があっていい。

参考にした情報源

カテゴリ 世界のパンニュース
国・地域 その他
テーマ 文化と伝統をたどる
タグ エクアドル 菓子パン

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